28 December 2011

クリスマスの街


  
十一月・十二月とほとんど家にいなかったオットが、今年最後の出張を終えて帰って来たのが金曜日。ちょうどムスコが冬休みに突入した週末だった。

  


土曜・日曜と家でゆっくり(妻は一週間分の洗濯を)して、月曜日から二泊三日の旅程で出かけたのは、二年前のクリスマスに行くはずだったストラスブール



  
リヨンからは、高速道路で五時間ちょっとの距離である。クリスマスラッシュにはまだ早かったので、交通渋滞もなし。午前九時半ごろリヨンを出て、三時過ぎにはストラスブールに着いた。





ものすごく寒いよ!と沢山の人に脅かされて超厚着で出かけたら、異常気象でリヨンより暖かいくらいだった。ただ、ポツポツとあいにくのお天気。ホテルにチェックインした後すぐ外に出たが、カメラが濡れるのが気になって、シャッターチャンスを何度も逃がした。




この時期にこの緯度だとそれでなくても日が短いのに、雨降りだったのであっという間に暗くなる。濃いグレーの空気に灯りが浮かびだすと、いかにもクリスマス。ホットワイン(ムスコはココア)を飲みながら歩く。途中で焼き栗とクレープのおやつ。





かなりの雑踏を覚悟していたが、天気のせいだろう、思ったほど人が多くなかった。市場というのはどこでもどんなときでも楽しいが、クリスマスにストラスブールの市場にいるんだと思うと、歩いているだけでうきうきする。






二年前の旅行は悲しい事情で土壇場キャンセルになったので、フランスでの最後のクリスマスにここに来ることができて、ワタシはとてもうれしかった。






悔しいのでリベンジしたかったというのではない。のちのち、「あの時ストラスブール行きがおじゃんになって、結局とうとう足を伸ばせずに終わってしまったなあ。おじゃんになったのは、不幸があって地球の裏側まで行かなくちゃいけなかったからだったんだよなあ」と思い出したくなかったのである。ストラスブールと悲しい事情がセットになって記憶バンクに入っちゃったら嫌だなあ、と。







オットにはそれが分っていたんじゃないかと思う。だから、連続の出張で疲れていてしばらく旅行は勘弁と思っていてもおかしくない時に、「ストラスブールに行こうよ」と誘ってくれたんじゃないだろうか。






フランス語とドイツ語の表示が混ざるストラスブールは、クリスマスの特別な雰囲気もあって、なんだか実在するようで実在しないような、夢の国のようだった。ここはどこ、ワタシは誰、ワタシが今ここにいる意味は何…そんなことを何度も考えた。







二日目の朝、ホテルの部屋の窓から外を見たら雪。

ちょっとちらつく雪といのは、なんであんなにうれしいんだろうか。家族三人喜んだのも束の間、いつのまにかそれも雨に変わってしまった。摂氏零度ちょっと上という気温と、冷たい雨がじわ~っと骨に染み入る感じが、義母の住むオレゴン州の冬を思わせる(と後でオットに言ったら俺もそう思ってた!と言うのでウケた)。






ストラスブールのカテドラルは、全く期待していなかったのだが、どこをどう見ても「おおおおおっ」と思う建築物である。中もため息ものの美しさだが、外側の装飾がとことん凝っていてとにかくすごい。ヴィクトル・ユーゴーが「巨大で繊細な驚異」と評した位で、ミラノのドゥオーモを見たときと同じくらい感動した。なんでもっと有名じゃないのか、不思議で仕方ない。





   

塔の上まで、らせん階段を三百段ほど登る。見晴らしのよい日には国境の向こうのシュヴァルツヴァルトも見えるらしい。

黒い森という名前の響きにはずっと昔から憧れていて、比較的近くにいるうちに足を伸ばすことができればいいなとは思うが、夢が叶うかどうかはなんとも言えない。イタリアには何度も行ってるが、ドイツには一度も行かずにヨーロッパを離れることになってしまうかもしれない。

この日、カテドラルの塔から黒い森は見えなかった。その代わり、うっすらと雪でお化粧をした屋根の波が、どこまでも続いているのを見ることができた。


  

  

あんまり寒くなくて感じが出ないねえと言いつつ、夫婦そろってホットワインを続けて飲む。ホットワインに関しては、うちは二人とも赤ワイン派。

ストラスブールのホットワインは、どれもリコリスの香りがした。リヨンで売られているホットワインにリコリス味のものは少ない(ないわけじゃないんだけど)。アルザスの地方色なのだろうか。リコリス自体は好きじゃないんだけど、温かいワインにほんのり漂うリコリスの香りは嫌じゃなかった。なんだか体がさらに温まるような気がするし(ほんとか)、消化にもよさそうな気がする(ほんとか)。リヨンに戻ってからさっそくスターアニスを買いに走って、ホットワインを作る度にひとつふたつ放り込むことにした。


  

スパイスを入れて温めたオレンジジュースというのも、寒い時には非常によろしい。これはアレンジの可能性がほぼ無限。酸っぱい系のジュースだったらまずOKだもんね。パイナップルジュース混ぜるとか、市販のスムージー使うとか。この冬は色々レシピを試してみようと思う。



  






  
  

肩にかけたショールでカメラをかばうようにしながら、時々立ち止まって写真を撮る。雨足が弱くなってきたなと思った頃には、

  
  

  

日もすっかり落ちていて、二日目もタイムアップ。ちーん。




  


三日目も、朝から雨。


朝食を済ませ、ホテルをチェックアウトしてから向かったのは、コルマール

ストラスブールから南へ75キロほどの所にある街で、ここもクリスマス・タウンとして有名である。我々にとっては都合よく帰路の途中。クリスマス市を楽しみたいなら、ストラスブールに行くよりコルマールに行った方がいいよ、と言った友人もいたくらいなので(ストラスブールはとにかく観光化されちゃってるから…ということらしい)、迷わず立ち寄ることにしたわけである。









ストラスブールから一時間ほどの道のりは、ものすごい雨。こんなひどい雨の中、クリスマスとは言えマーケットやってるんだろうか…と心配になったほどだったが、コルマールに近づいたら雨足が弱くなって少しホッとする。


コルマールは、自由の女神像をデザインしたフレデリク・オーギュスト・バルトルディが生まれた場所としても知られている。高速道路を降りて街に入ろうとしたら、最初の交差点にいきなり自由の女神が建っていて、家族三人大うけだった。



バルトルディが生まれた家は、現在美術館になっている。クリスマス市を冷やかしながら小雨の中をぷらぷら歩いていたら、アーチ型の門の向こうに素敵な中庭が見えて、気にになったので中に入ってみたらたまたまそこがその美術館だった(上の写真ね)。ラッキーな偶然。あいにくお昼休みで閉館中だったけど。






このバルトルディと言う人、リヨンのテロー広場にある噴水の彫刻をデザインした人でもある。テロー広場はうちの近くでしょっちゅう通るので、それで彼の名前に覚えがあったというわけだ。そうでなければなんでこんなところに自由の女神があるのかと、謎のまま終わってしまったに違いない。

美術館の中にも入ってみたかった。閉まってて残念だったな。




ここでもまたちびちびとホットワインを飲みつつ、カメラが濡れないようにを気をつけながら雨の中を歩く。






コルマールはこじんまりとしていて、ストラスブールほど人が多くない。アルザス地方らしい可愛らしい建物が並んでいて、それがみんなクリスマスの飾りで華やいでいる。クリスマス市で売られているものも、どこでも買えそうなオーナメントなどより手作りのものや郷土品が多く、ストラスブールほど商業化されていないように見えた。ストラスブールよりコルマールよ、という友人の言葉に納得。ストラスブールで一泊、コルマールに移動して一泊、という旅程でもよかったかもしれない。





なによりうれしかったのが、シュークルート(ザワークラウト)を売っている屋台があったことである。というのも、ストラスブールのクリスマス市では、クレープもワッフルもプレッツェルタルト・フランベもあったのに、なぜかザワークラウトだけなかったのだ。オットもワタシもザワークラウトが大好きで、アルザス地方へ来たからには山ほど食って帰るぞ!と思っていたのに見つからなくて、大変不満だったのである。




ちなみに、あんまり気になったのでオットがとある屋台で聞いてみたところ、ザワークラウトはレストランで出すもので、屋台で売ったら競争になるのでストラスブールのマーケットでは販売が禁じられている、という返事であった。なんだか分かったような分かんないような説明である。本当かどうかも定かではない。


まあしかしそんなことはもうどうでもいいのだ。ザワークラウト、買えたんだもんね。コルマールの屋台で買ったこれは、とてもおいしかった。酸味加減が絶妙で(酸っぱすぎたらまずいし、酸味が足りないとザワークラウト失格だし)、混ざっているソーセージやシュペッツレの量もちょうどよかった。具が入りすぎてるのはだめ。主役はあくまでザワークラウトなんである。







もう少し街を歩いて回ろうか…と話していたらけっこうしっかりと雨が降ってきて、じゃあもうリヨンに向かって戻ろうか、ということになった。思ったほどゆっくりできなかったのは残念だったが、散策している間大雨でなかっただけでもありがたかったと思う。実際、帰り道の高速道路は、雨、雨、雨。ストラスブールからリヨンまで、車で五時間の距離を行く間、ずううううっと雨が降っていたわけである。それも、しとしとじゃなくてかなりしつこくざあざあと。


そんなうっとうしい天気の中、行きも帰りも運転してくれてオットよありがとう。






今年も欧州あちこちの色んな所に連れて行ってもらったけれど、最後にほっこりと小さな旅行が、とても素敵な贈り物になった。二泊程度の旅というのは、準備も帰宅してからの後片付けもたいそうじゃなくて、でも充分息抜きになる。もしかしたらお母さんには一番うれしいタイプの旅行かもしれない。

家族で一緒に過ごす時間(とご飯の用意しなくていいと言う事実)が、なによりのクリスマスプレゼント。ちょっとだけど雪も降ったし 。オットはまるで自分が降らせたように自慢げにムスコに向かって「ほら! 雪だよ! 雪! ホワイトクリスマス!」と連呼していた。ぷぷぷ。






日本でもアメリカでもそしてフランスの我が家でも、今年は本当にいろんなことがあった。三月から九月にかけての半年は特に、荒波で難破するかと思った。だけど、大病もせずに一年過ごすことができたし、なによりちゃんと屋根のある場所で毎日食べるものに恵まれていることに心から感謝したい。

インターネットや実際の出会いを通して新しい友達も増えたし、以前からいた友人達とは、フランスからという距離を通じてかえってその繋がりをもっと強くすることができたような気がする。みなさん本当にありがとう。



我が家では、年が明けたらフランスを離れるカウントダウンが始まる。リストも作らなくちゃいけないし、荷物の整理にもハッパかけなくちゃ。残り半年、無事故無病で過ごせますように(←今までの二年半で三回追突されているって、前に書いたっけ?)




皆様どうかよいお年を。新しい一年が、平和で実り多いものでありますように。



24 December 2011

願い




食べるものがない人や、危険と隣り合わせの人達に。
今年、悲しいことがあった人達にも。

クリスマスのメッセージが届きますように

05 December 2011

ヒヤシンス




金曜日の市場に花屋さんが来ていて、ついつい買ってしまった。無事に咲いてくれるだろうか…親指茶色いのに。

02 December 2011

クリスマスに読む本 2




クリスマスイブの夜、サンタクロースが子供達にプレゼントを届けるのを手伝う、オリーブという名前の犬のお話

翻訳版も出ているようだけれど、読者評を読むと、日本語版では話の内容が違っているかもしれないと思う。うちにあるこの本には、オリーブを助けるペンギンなんて登場しないので。でもさ、だったらイラストも変えてあるのかしらん。ちょっと気になるぞ。タイトルそのものが(そして話の発端が)、言葉のシャレなので訳すのは難しい…というよりはっきり言って不可能だと思うんだけれど、それが関係しているのか?

この本、実はもう20年くらい前に買ったもの。絵本は大好きで沢山持っているが、これはコレクションの最初の5冊の中に入るかもしれない。

『赤鼻のトナカイ』の歌詞、二番の出だしは"All of the other reindeer used to laugh and call him names." いつもみんなに笑いものにされていた、という部分。この"All of the other reindeer"「他のトナカイたちはみんな」という意味の歌詞が、 "Olive, the other reindeer"「もう一頭のトナカイのオリーブは」に聞こえて、オリーブは「なんだ、あたしは犬じゃなかったんだ。トナカイだったのね。じゃあサンタさんのお手伝いに行かなくちゃ」と北極まで出かけて行く、というわけ。

説明しなきゃいけなくなると面白くなくなっちゃうんだけど、このお話、子供には(そしてアラフィフ女子にも)大うけなんである。